日本気管食道科学会会報 第73巻2号
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表1 甲状腺癌,唾液腺癌における代表的なバイオマーカーと,治療効果の期待される薬剤抗HER2抗体であるトラスツズマブが,HER2陽性の根治切除不能な進行・再発の唾液腺癌に対して承認された8)。現在同対象に対して,トラスツズマブに抗癌剤を付けた抗体薬物複合体(ADC)であるトラスツズマブデルクステカンの医師主導治験が行われている。3.食道癌 1)■平上皮癌 食道■平上皮癌(ESCC)は3つのサブタイプに分類される。ESCC1はNRF2経路の変化を特徴とし,ESCC2はNOTCH1, ZNF750遺伝子の変異,KDM6A, KKDM2D遺伝子の不活化,CDK6遺伝子の増幅,PTEN, PIK3R1遺伝子の不活性化が高頻度で認められる。ESCC3はPI3K経路の活性化,SMARCA4遺伝子の体細胞変異を特徴とし,頭頸部■平上皮癌では同様のプロファイルはみられず,ESCCに限定されている可能性がある9)。現在のところ,サブタイプ別に特化した治療開発は進んでいない。 頭頸部■平上皮癌と同様,EGFRの発現が高いことから抗EGFR抗体の開発が行われているが,初回化学療法に対する併用試験(POWER試験),化学放射線療法との併用試験(SCOPE-1試験,RTOG0436試験)など,いずれもネガティブな結果であった。PIK3CAの遺伝子変化を20%程度認めるため,阻害剤であるBKM120の第II相試験が行われたが,明らかな有効性を示すには至らなかっバイオマーカー(割合)甲状腺癌BRAF遺伝子変異(乳頭癌:70%,未分化癌:20%)NTRK遺伝子変異(乳頭癌:10─20%)RAS遺伝子変異(濾胞癌:30─50%)RET遺伝子変異(髄様癌:70%)ALK融合遺伝子(頻度は稀)アレクチニブ,クリゾチニブ,セリチニブ唾液腺癌NTRK融合遺伝子(80─90%)エヌトレクチニブ,ラロトレクチニブ,HER2高発現(30─40%)AR高発現(唾液腺導管癌:90%)た。またJCOG0502-A1試験の結果,FGF関連遺伝子の増幅が予後不良因子であると報告されており10),FGFR2阻害剤に免疫チェックポイント阻害剤を併用する臨床試験が行われている。 2)腺癌 食道腺癌(EAC)はBarrett食道から発生することが多く,その起源については未だ議論されているが,マウスモデルでBarrett食道とEACは胃近位部の細胞,または食道胃接合部の残存胚細胞に由来する可能性が示唆されている11, 12)。胃癌は4つのサブタイプに分類され,そのうちCINサブタイプは近位に近くなるほど割合が高くなる。EACはCINサブタイプ胃癌と類似しており,特徴としてERBB2遺伝子,VEGFA遺伝子の増幅や,TP53遺伝子変異が高頻度に認められ,胃腺癌におけるHER2陽性割合が17%程度なのに対し,食道胃接合部腺癌,食道腺癌では,30%と高値であることが知られている。HER2高発現例に対する抗HER2抗体薬の有効性が,ToGA試験やDESTINY-Gastric1試験などで報告され13, 14),すでに日常診療においてトラスツズマブや,トラスツズマブデルクステカンが承認されている。4.おわりに がんゲノム医療はさまざまな癌種で治療開発が進んでおり,がん治療の発展において,今後重要になると考えられる。しかし,がん遺伝子パネル検査の保険適用は,標準治療がない場合または終了した場薬剤ベムラフェニブ,ダブラフェニブエヌトレクチニブ,ラロトレクチニブ,セリトレクチニブチピファルニブセルペルカチニブセリトレクチニブトラスツズマブ,ペルツズマブアパルタミド,ビカルタミド,ダロルタミドAR阻害93日気食会報,73(2),2022BRAF阻害TRK阻害ファルネシルトランスフェラーゼ阻害RET阻害ALK阻害TRK阻害HER2阻害薬効

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