日本気管食道科学会会報 第73巻2号
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 集学的治療の発展にともない,頭頸部癌患者の生存率,QOLには,一定の改善が見られ,一部の再発転移症例は,免疫チェックポイント阻害剤(ICI)により,年単位での生存が望めるようになっている。しかしながら,進行頭頸部癌患者の治療成績は依然として満足できるレベルには到達していない。こういった状況の中で,2018年から本邦でもがんゲノム医療(precision medicine:PM)が本格的に始動となった。現状では,腺癌を中心とする極めて限定的な症例には有効性を認めているものの,頭頸部■平上皮癌(HNSCC)に対しては,がんゲノム医療は機能していない。これは,現行のがんゲノム医療が,癌をドライブする癌遺伝子の機能獲得変異(=アクセルの故障)を主な標的としているのに対して,HNSCCはp53,FAT1,NOCTH等の癌抑制遺伝子の機能喪失変異(=ブレーキの故障)を特徴とする癌であることによる。本シンポジウムではこの状況を打破し,HNSCCに有効なPMを確立す95るために,われわれが模索している2つの戦略を解説したい。1.頭頸部癌のアクセルを見つける;【環境ストレスに依存するHNSCCは,癌抑制遺伝子変異(ブレーキの故障)を利用して組織再生・脱分化のシグナル(アクセル)を効率よくエンジンに伝えてドライブする癌である】,という仮説に基づき研究を行っている。これまでに,頭頸部■平上皮の組織再生転写調節因子YAP1がアクセルで,YAP1によって引き起こされる転写リプログラミングがエンジンであるという知見を得ている(Science Ad-vances 2020)。2. ICIに反応する症例を選別する簡易なliquid biomarkerを樹立する(医師主導型多施設共同前向き試験BIONEXT);担癌患者の血液内に腫瘍・免疫細胞等から放出される細胞外小胞(exosomes)のmRNAの網羅的解析から,ICIのresponderを予測する。これまでに対象患者111症例の血漿の採取を終了し,予備的な解析が終了している。■■■■■■■■■■■ ■■■■■■■■■■■■■ ■日気食会報,73(2),2022J. Jpn. Bronchoesophagol. Soc.Vol. 73 No. 2, 2022シンポジウム3第72回日本気管食道科学会総会ならびに学術講演会予稿集より抄録を再録し,講演の図表を提供いただいた。■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■ff■■■■■■■■ ■ff■■■■■■ ■■ff■■■■■■■■■■■■■■ff■■■■■■■ff■■■■■■■■ ■■■■■■ff■■ ■■■ff■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■National Kyushu Cancer Center■■■■■■■■ff■■■■■■■■頭頸部癌で癌癌エピピゲノム医療を機能させるためには環境ストレスシグナルターボ搭載エンジン発癌・進化Driving force頭頸部■平上皮癌でがんゲノム医療を機能させるためにはがんゲノム医療益田宗幸1)1)国立病院機構九州がんセンター 頭頸科

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