手術の低侵襲化の進歩は著しく,さまざまな取り組みが行われている。自分の専門分野以外の取り組みを学ぶ機会はそれほど多くないが,その中には十分応用可能な技術が含まれている場合があり,他領域の取り組みを学ぶことで新たな発想を生み出す可能性がある。今回は,複数の専門領域を有する本学会の特徴を活かし,耳鼻咽喉科領域,消化器領域,呼吸器領域の最新の低侵襲手術についてご講演いただいた。 まず,講演1として千年俊一先生(久留米大学耳鼻咽喉科・頭頸部外科)には嚥下障害に対する嚥下機能改善手術である内視鏡下輪状咽頭筋切断術(en-doscopic cricopharyngeal myotomy, ECPM),鼻咽腔閉鎖不全に対する3D外視鏡を活用した咽頭弁形成術について術前準備,術中,術後合併症への対策と対応,および治療効果を中心にご講演いただいた。 講演2では佐野大佑先生(横浜市立大学耳鼻咽喉科・頭頸部外科)に咽喉頭癌に対する経口的ロボット支援下手術(Transoral robotic surgery, TORS)についてTransoral videolaryngoscopic surgery(TOVS)やEndoscopic laryngo-pharyngeal surgery(ELPS)などの鏡視下咽頭・喉頭悪性腫瘍手術との比較に関する多施設共同研究結果を示しながらその有用性をご講演いただき,従来の治療と比較して,より根治性の高い治療が施行できる可能性が示された。 講演3では川久保博文先生(慶應義塾大学医学部一般消化器外科)に食道癌に対する胸腔鏡下手術とロボット支援下手術についてご講演いただいた。実際の手技について胸腔鏡下手術とロボット支援下手術を比較しながら食道癌に対するロボット支援下手術の低侵襲性,特に経口摂取開始時期や入院期間の96短縮における有効性について提示していただいた。 講演4では松本 勲先生(金沢大学呼吸器外科)に肺癌に対する単孔式胸腔鏡下手術(VATS)による肺葉切除についてご講演いただいた。多孔式VATSや海外の単孔式VATSとの比較を行いながら,安全性や根治性の観点から問題点を提示してそれに対する改良としての具体的な工夫をお話しいただき,多孔式VATSと比較して■色ない単孔式VATSの手術成績を示された。さらに各施設が取り組みやすいように工夫した点や若手医師に対するトレーニングの必要性を含めて解説していただいた。 講演5では眞庭謙昌先生(神戸大学大学院医学研究科外科学講座呼吸器外科学分野)に呼吸器外科領域の低侵襲手術の変遷,肺悪性腫瘍に対するロボット支援下手術(Robotic-assisted thoracic surgery, RATS)についてご講演いただき,RATSの変遷から実際の手技,159例の手術成績をご提示いただいた。多孔式VATSと比較して手術適応,手術成績とも■色ない手術が遂行されている現状,さらに若手外科医に対するトレーニングやコストに関する問題点とその解決の方向性についてお話しいただいた。 今回のシンポジウムでは耳鼻咽喉科,消化器外科,呼吸器外科の複数領域にわたる低侵襲手術について豊富な経験を持つ演者の先生方にご講演いただき,各分野において,安全性,根治性を重視しながら,ロボットを含めたさまざまなアプローチを導入して手術の低侵襲化に対する取り組みが進んでいることをご提示いただいた。今後益々手術の低侵襲化は進むため,低侵襲化のための技術の進歩に注目しながら他領域と交流していくことの必要性を改めて感じたシンポジウムとなった。 本抄録/会議録に関連し,開示すべき利益相反関係にある企業などはありません。日気食会報,73(2),2022pp.96─107J. Jpn. Bronchoesophagol. Soc.Vol. 73 No. 2, 2022シンポジウム4本稿は第72回日本気管食道科学会の抄録/会議録である。シンポジウム4「低侵襲時代の新技術」司会者のまとめ低侵襲時代の新技術伊豫田 明 東邦大学医学部外科学講座 呼吸器外科学分野■谷 一郎 藤田医科大学 耳鼻咽喉科・頭頸部外科
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