嚥下障害治療の外科的治療には,喉頭機能を温存しつつ経口摂取能力を回復させる嚥下機能改善手術がある。これまで報告されてきた嚥下機能改善手術のうち,経口的手術が可能なのは輪状咽頭筋切断術,声帯内充填術,咽頭弁形成術の3術式である。いずれも嚥下障害患者に対して,低侵襲であり負担の少ない術式といえる。なかでも,近年,経口的な手技として注目されている内視鏡下輪状咽頭筋切断術(endoscopic cricopharyngeal myotomy:ECPM)には,従来の頸部外切開法に比べて組織傷害が少ない,術中に経口的に食道入口部の広がりを評価できるなどの利点がある。さらに海外では,頸部外切開法に比べて手術時間が短く,術後に経口摂取の開始時期が早いこともECPMの利点として報告されている。ECPMの治療目的は,上部食道括約筋として機能する輪状咽頭筋を筋腹で切断あるいは切除することで食道入口部を常時弛緩させ食物通1)久留米大学 耳鼻咽喉科・頭頸部外科97過を容易にすることにある。ECPMでは執刀開始前の準備として,拡張式喉頭鏡もしくは拡張式下咽頭憩室鏡を用いて経口的に食道入口部を展開し,食道入口部後壁粘膜下の輪状咽頭筋の隆起が十分であることを確認する必要がある。しかし,食道入口部の展開が困難な症例があり,この場合に無理な展開によって不必要な組織傷害を生じる危険性がある。また,術中出血時の止血困難,手術時間延長による全身麻酔の負担,重篤な術後合併症の危険性もあり,実際にこれらが生じた場合にはECPMは必ずしも低侵襲手術であると言い難い。ECPMの実施においては,経口的咽喉頭手術を習熟しておく必要があり,展開困難,術中出血や術後感染への対策やそれらが生じた場合に対応できる技術力が重要になる。そこで本講演では,特にECPMの術中・術後合併症への対策と対応を中心に,内視鏡下嚥下機能改善手術における新技術について述べる。日気食会報,73(2),2022J. Jpn. Bronchoesophagol. Soc.Vol. 73 No. 2, 2022シンポジウム4第72回日本気管食道科学会総会ならびに学術講演会予稿集より再録千年俊一1),深堀光緒子1),栗田 卓1),濱川幸世1),末吉慎太郎1), 佐藤公宣1),三橋亮太1),小野剛治1),佐藤公則1),梅野博仁1)内視鏡下嚥下機能改善手術低侵襲時代の新技術
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