1)横浜市立大学 耳鼻咽喉科・頭頸部外科,2)東京医科大学 耳鼻咽喉科・頭頸部外科学分野,3)藤田医科大学医学部 耳鼻咽喉科・頭頸部外科学,4)鳥取大学医学部 感覚運動医学講座耳鼻咽喉・頭頸部外科学分野,5)京都大学大学院医学研究科 耳鼻咽喉科・頭頸部外科,6)名古屋大学医学部附属病院 耳鼻咽喉科,7)愛知医科大学医学部 耳鼻咽喉科,8)香川大学医学部 耳鼻咽喉科・頭頸部外科98要があるという問題点を有する。日本においてはTransoral videolaryngoscopic surgery(TOVS)3)やEndoscopic laryngo-pharyngeal surgery(ELPS)4)が,早期の咽頭癌や喉頭癌の治療法として開発され,実臨床で広く行われている。さらに,咽喉頭癌に対する低侵襲治療として米国を中心にその有用性が多く報告されているTransoral robotic surgery(TORS;手術支援ロボット支援下経口的手術)では,高精度に拡大された視野において安定化したロボットアームにより腫瘍を正確に切除することが可能となっている5)。このように咽喉頭癌に対する経口的切除術は複数のモダリティが存在するが,その治療効果の比較は十分になされているとは言い難い。2.TOVSの治療成績と安全性 TOVSはShiotaniらにより開発された経口的切除術アプローチの一つである3)。手技の詳細は他稿を参照されたいが,本術式では顕微鏡下手術よりも広い直視的な視野とワーキングスぺースの確保が可能となり,既存の手術器具を用いる両手操作による直達的手技により腫瘍を切除する3)。さらに内視鏡システムや内視鏡自体に汎用性があり,Narrow band imaging(NBI)を同術の観察で用いることで粘膜下病変を含めた正確な病変進展範囲の観察も可能となる。通常TOVSの適応はTis病変から,従来の外切開下咽頭喉頭部分切除術の対象であるT1─2とされるが,喉頭の深部浸潤のないT3病変も症例により適応となる可能性がある。 このようにTOVSには低侵襲手術としての多く日気食会報,73(2),2022J. Jpn. Bronchoesophagol. Soc.Vol. 73 No. 2, 2022シンポジウム4本稿は第72回日本気管食道科学会の抄録/会議録である。1.はじめに 咽頭・喉頭は嚥下,発声,呼吸に重要な役割を果たしているため,咽頭・喉頭癌の治療の際には根治性とともに治療後の患者の生活の質を考慮する必要がある。従来,咽喉頭癌に対する非手術的な低侵襲治療として放射線治療が広く行われてきたが,放射線治療には治療中に生じる皮膚炎,粘膜炎や,多くは不可逆的となる甲状腺機能低下症,顎骨壊死,嚥下障害などの晩期有害事象が問題である。進行咽喉頭癌では放射線治療にシスプラチンを併用する化学放射線治療が非手術的な標準的根治治療であるが,RTOG91-11試験の長期成績の結果からも示唆されているように1),上記にあげた早期・晩期有害事象はより重篤となる。さらに照射後の救済手術では創傷治癒力低下由来の合併症リスクの上昇に留意が必要となることや,比較的若年の患者においては将来的な重複癌・誘発癌発症の可能性に対する配慮も必要である。 このような背景のもと,近年,早期咽喉頭癌に対して低侵襲手術である経口的切除術が開発され,広く行われている。経口的切除術は頸部の外切開を伴わず,切除範囲を必要最小限とすることで治癒期間の短縮と機能喪失の最小化を目標とするもので,20年前に確立されたTransoral laser microsurgery(TLM)が経口的切除術のマイルストーンといえる2)。しかしTLMでは顕微鏡下での手術となるため視野が限定され,大きな腫瘍では分割切除する必佐野大佑1),清水 顕2),■谷一郎3),藤原和典4),岸本 曜5),丸尾貴志6), 藤本保志7),塚原清彰2),森 照茂8),加藤久幸3),折舘伸彦1)咽喉頭癌に対するロボット支援下手術について低侵襲時代の新技術
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