切開施行率,術後の胃管使用率が非ロボット手術と比較して有意に低かったと報告されている19)。 米国においては前述の通りTORSが始まってから時間が経っており,その治療成績についての系統的レビューやメタ解析の結果も近年では報告されている。ParkらはTORSは外切開手術と比較して有意に良好な無病生存期間を示し,遊離皮弁による再建のリスクを減少させると報告しており20),またCastellanoらは系統的レビューにおいて,いくつかのスタディでTORSの術後のQOL/嚥下機能は外切開手術,もしくは化学放射線治療と比較して良好であると報告している21)。 本邦では頭頸部癌治療におけるda Vinci Robotic Surgical System®の保険収載は2021年11月現在まだなされていないが,先に鳥取大学,京都大学,東京医科大学により先進医療Bプログラムで実施された多施設共同臨床試験の結果を受けて,2018年8月に口腔内ロボット支援下手術用の同システムが喉頭咽頭癌の治療に薬事承認された。5. 本邦におけるTOVS, ELPS, TORSの治療成績比較 このようにTORSは日本で導入されたばかりであるが,TOVSやELPSといった経口的切除術との治療成績の比較はいまだ行われていない。また米国におけるTORSと従来の外科治療との比較についても外切開手術やTLMとの比較であり,経口的切除術のモダリティ間の違いを比較された報告は存在しない。 そこで筆者らは咽喉頭■平上皮癌患者を対象に,過去に本邦で行われたTOVS, ELPS, TLMを含む非ロボット鏡視下経口的手術を「みなし標準的経口的切除術」であるhistorical controlとし(鏡視下経口切除群),治療効果についてTORSと比較したので最後に紹介する。同研究では頭頸部悪性腫瘍全国登録事業として中咽頭・下咽頭・声門上癌と診断され,登録された情報より,非ロボット経口手術を受けたと想定される患者データを収集し(悪性腫瘍登録群),この比較の妥当性の検証に使用した22)。この多施設共同後向きコホート研究ではすべてのコホートから入手可能であった切除断端陽性率,術後治療施行率を主要評価項目とし,TORSあるいは非ロボット経口的手術が行われた患者の中から頸部郭清が併施された症例,あるいは頸部リンパ節転移を有する症例は除外された。詳細は同報告を参照さ日気食会報,73(2),2022100れたいが,最終的にはTORS群では68症例,鏡視下経口切除群236例,悪性腫瘍登録群1228例が対象となり,TORS群では中咽頭が多く,それ以外のコホートでは下咽頭が多い結果だった。全患者を対象とした切除断端陽性率はTORS群では鏡視下経口切除群と比較して有意に低い結果だった(悪性腫瘍登録群ではデータなし)。術後治療施行率については三群間に有意な違いは認めなかったが,TORS群は最も低い率を示した。さらに中咽頭癌のみを対象としたサブ解析では,TORSコホートでは57症例,鏡視下経口切除群73例,悪性腫瘍登録群171例が対象となり,TORS群では側壁,かつT2以上の症例が多く,鏡視下経口切除群と比較して断端陽性率が有意に低かった。術後治療施行率も低い結果だったが三群間の差は有意ではなかった。同研究はそのデザイン上,排除しきれないバイアスが多数存在し,また生存や再発など治療経過について長期的な観察がなされておらず,また治療の安全性や治療後の患者のQOLが検証できていないという問題を有するが,TORSではその他の経口切除術と比較してより切除断端陽性となりにくい可能性が示唆される結果であった22)。 しかし繰り返しにはなるが,TORSの治療成績や安全性については,今までTOVSやELPSといった他の経口的切除と直接比較した試験は存在しない点には留意すべきであり,TORSの優位性を検証するには,理想的にはバイアスを可能な限り排除したデザインによる臨床研究が必要である。6.さいごに 本稿では現在実臨床においてTOVS, ELPS, TORSが行われている日本において,それぞれのモダリティの治療効果について概観した。TOVSやELPSは本邦で開発され既存の手術・検査器具を用いて行うことが可能であり,必要な費用が少ないという利点を有する。2018年8月にda Vinci Ro-botic Surgical System®が咽喉頭癌の治療に追加薬事承認され,TORSがようやく頭頸部癌治療の一つのアプローチとして利用できるようになった。2019年4月より規定のトレーニングを修了した施設にてTORSが開始されており,認可施設(2021年7月現在22施設)にてTORSを予定する際は,全例その適応が日本頭頸部外科学会 頭頸部ロボット支援手術運営委員会に諮られている。またさらに同委員会にてTORS実施全症例レジストリが行わ
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