当科では1996年から食道癌に対する胸腔鏡手術を導入し,2009年からは上縦隔操作は左側臥位,中下縦隔操作は腹臥位とするHybrid体位を標準としている。導入当初は胸壁破壊の軽減による手術の低侵襲化を目的としていたが,近年では胸腔鏡の拡大視効果により精度の高いリンパ節郭清を目的としている。2018年6月よりロボット支援食道切除術を導入し,30例に施行した。da Vinci Xi Surgical Systemは鉗子の関節機能によって臓器を圧排することなく,任意の部位へのアプローチが可能となる。そのため腹臥位でのアプローチでも上縦隔のより高位まで操作が可能であり,すべての胸部操作を腹臥位にて施行している。使用するデバイスはdouble bipolar法を基本とし,反回神経周囲は1)慶應義塾大学医学部 一般消化器外科102Potts scissorsを使用している。手技が定型化した6例目以降で反回神経麻痺は1例,胸部操作時間の平均値は215分,出血量の平均値は10 ml以下であり,大きな合併症なく安全な導入が可能であった。da Vinci Xi Surgical Systemによる食道切除術は鉗子の関節機能によって臓器を圧排することなく,任意の部位へのアプローチが可能である。左右反回神経周囲リンパ節郭清においてはより頭側へ,左反回神経周囲リンパ節郭清では気管を強く圧排することなく気管左縁前方へのアプローチが可能である。また,拡大視による良好な視野,motion scale,手振れ防止機能により正確で精緻な手術が可能であり,特に反回神経周囲リンパ節郭清は安全かつ短時間で可能であると考える。日気食会報,73(2),2022J. Jpn. Bronchoesophagol. Soc.Vol. 73 No. 2, 2022シンポジウム4第72回日本気管食道科学会総会ならびに学術講演会予稿集より再録川久保博文1),松田 諭1),北川雄光1)ロボット支援食道切除術の導入と手術手技の標準低侵襲時代の新技術
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