日本気管食道科学会会報 第73巻2号
67/167

 肺癌手術の低侵襲アプローチの選択肢として,多孔式胸腔鏡手術(VATS)にロボット支援下手術(RATS),単孔式VATSが加わった。単孔式VATSは,小さい創一つで手術を行うため,整容性に優れ,術後■痛を軽減しうる利点があり1),アジアや欧州では盛んに行われている。近年,本邦でも一歩遅れた感はあるが急激に普及し始めている。 肺癌に対する単孔式VATSについては,2004年Roccoらが初めて肺のwedge resectionへの適用を報告し2),Bulgarelliらは,肺葉切除のみならず,区域切除,気管支形成,血管形成などの複雑な手術にも単孔式VATSを適用している3)。Bulgarelliらは単孔式VATSの創の大きさを4 cm未満と定義しており3),この小さな創から,開胸や多孔式VATSで使用する手術器具を用いて複雑な手技を行うことは極めて困難である。このため器具同士が干渉しないように長さや彎曲の角度が工夫された彎曲器具が用いられている(図1)。 アジアや欧州で主流となっている肺癌に対する単孔式VATSの手技は,超音波凝固切開装置や吸引管を多用した剥離操作が中心で,これまで本邦で行われてきたような,血管床を剥離して行う血管処理や,層構造を利用したリンパ節郭清は行われていない。われわれは,単孔式VATSにおいても開胸同様の安全性と根治性を考慮した基本手技を生かした手技を行うよう心がけている。しかし,単孔式VATSでは,上述のごとく,一つの小さな創から複数の器具を挿入するため,器具同士が干渉し術野展開を十分行えないうえに,多孔式VATSやRATSと同様の器具操作を行うことは難しく,同等の手技を行うには工夫が必要である。 単孔式VATSでは多孔式VATSやRATSに比1)金沢大学 呼吸器外科103べ,創の大きさや位置,対面式か見上げ式か,使用する内視鏡・器具・energy deviceの選択,いずれもが手術器具の操作に大きな影響を与えると思われる。さらに,創の大きさがトラコポート径より大きく,鉗子や内視鏡の位置が安定しにくいことも操作性を落とす原因であることも考慮する必要がある。 創の大きさや位置は器具の操作性に直結し,創の大きさが4 cm未満になると操作は一気に難しくなる印象である。当科では導入当初は6 cm創から始め,見上げ式で従来の多孔式VATSの器具を用いて行った。この創の大きさでは多孔式VATSと同様に,助手が術野を展開し,術者が片手で組織を把持し,もう一つの手で剥離や切離,焼■を行うことができる。しかし,創が4 cm未満になると手術器具が干渉し,かなりストレスのかかる手術となる。図1 単孔式VATSに用いられる手術器具:器具同士が干渉しないように長さや彎曲の角度が工夫された彎曲器具が用いられている.日気食会報,73(2),2022J. Jpn. Bronchoesophagol. Soc.Vol. 73 No. 2, 2022シンポジウム4本稿は第72回日本気管食道科学会の抄録/会議録である。肺癌に対する単孔手術における当科の試み松本  勲1)低侵襲時代の新技術

元のページ  ../index.html#67

このブックを見る