図4 右下縦隔郭清:下葉気管支をテーピングし牽引した状態で,自作spatulaを 用いて術野を展開し,郭清を行う.うに,下葉切除の場合は下葉気管支をテーピングしたうえで牽引し,下縦隔を郭清した後に気管支を切離している(図4)。上葉または中葉切除の場合でも中間幹や下葉気管支をテーピングのうえ牽引し,気管分岐下リンパ節を郭清する。気管分岐部の開排を行わなければ,狭い深部に突き進む形になり周囲臓器の損傷のリスクが高い。気管分岐下リンパ節の郭清では腹側より,末梢気管支から気管分岐部に向かい可及的に郭清しておき,背側に移り分岐部周辺を郭清した方がより安全確実に郭清できると思われる。 当科では,2012年から原発性肺癌に対する単孔式VATSを行ってきたが,2019年から本格的に単孔式VATSを導入した。2019年から2021年9月までに原発性肺癌に対する肺区域切除,葉切除は42例であった。内訳は,男19,女23。平均68(52─80)歳。腺37,■平4, LCNEC 1。肺切除の範囲は,葉切除では右上9,右中3,右下3,左上14,左下6,区域切除では上大区切除7であった。リンパ節郭清範囲は2a-1:36, 2a-2:2, 1b+■:4。cStageは0/IA1/IA2/IA3/IB/IIA/IIIA:2/7/19/7/4/2/1,pStageはIA1/IA2/IA3/IB/IIA/IIB:8/13/10/6/1/4。平均手術時間は229(171─318)分。これらの症例のほか,単孔式VATSで開始したが,出血(器具の干渉,staplerの肺動脈結紮糸巻き込み),浸み込みリンパ節で創を延長したものが初期に4例あったが,すべて8 cmまでの創延長で対処が可能であった。重篤な周術期合併症はなく,心房細動2,肺炎1,胸腔ドレーン抜去後気胸1であった。観察期間は1─29カ月で,再発はp-IIB期の1例のみ(脳転移,縦隔リンパ節転移)であった。105 リンパ節郭清に関しては,肺葉切除+ND2a-1郭清を行った原発性肺癌症例において,多孔式VATS,RATS,単孔式VATSで郭清個数,郭清時間を比較した。対象は2018〜2020年までに当科で手術を行った多孔式(3 port)VATS 40例,RATS 35例,単孔式VATS 20例である。平均郭清個数(個)は多孔式VATS 14.2, RATS 22.1,単孔式VATS 18.6であり,多孔式で有意に少なかった(p<0.04)。平均郭清時間(分)は多孔式VATS 17.5, RATS 29.8,単孔式VATS 18.4とRATSで有意に長かった(p<0.001)。以上から,多孔式VATS, RATSに比べ,単孔式VATS導入時であっても同等の郭清が行えていたと考える。 Liuらの報告5)では,単孔/多孔の平均リンパ節郭清個数は,葉切除では28.5±11.7/25.2±11.3と有意に単孔式で多く(p=0.013),区域切除では19.5±10.8/17.9±10.3と有意差がなかった。また,肺葉切除での単孔/多孔の平均手術時間は2.99±0.87/3.47±1.06(時間)と単孔式で有意に短かった(p<0.001)。Muらのpropensity-matched analysisを用いた単孔式VATSと3ポートVATSの成績の比較では,平均リンパ節郭清個数も郭清stationも有意差がなく,単孔式VATSは3ポートVATSと同等のリンパ節郭清が行えると報告している6)。ただし,これらのデータは後ろ向き研究の評価であり,learning curveの影響も大きいように思われる。 肺癌手術後の予後に関しては,Liuらはpropen-sity-matched analysisを用いて単孔式VATSと多孔式VATSの成績を比較し,5年生存率では有意に単孔式VATSの予後が良好で(p=0.027),無再発生存率や局所再発の割合は同等であったと報告し日気食会報,73(2),2022
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