日本気管食道科学会会報 第73巻2号
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107ジョンを1例に行った。重篤な合併症を1例経験した。(左上葉切除後の脳■塞,虚血性腸炎:在院死)4.VATSとの比較 上記期間中に原発性肺癌に対しRATSもしくはVATS葉切除を行った429症例について両手術アプローチの短期成績を比較した。RATS症例は159例,VATS症例は270例であった。平均年齢はRATS群:69歳(42─84),VATS群:70.5歳(36─86),平均腫瘍径はRATS群:18 mm(6─40),VATS群:20 mm(4─95),臨床病期I期はRATS群:142例(89%),VATS群:232例(86%),PS0の症例はRATS群:152例(95%),VATS群:246例(91%)であった。その他,術前喫煙指数,BMI含め両群の患者背景に有意な差は認めなかった。また,手術成績については,平均手術時間はRATS群:188分(83─340),VATS群:184分(67─337),平均出血量はRATS群:23.4 ml(5─300),VATS群:20.1 ml(10─150),術後合併症発生率はRATS群:20%,VATS群:23%,平均入院期間はRATS群:13日(7─105),VATS群:14日(7─50),周術期死亡率はRATS群:0.6%,VATS群:0%であった。5.考察・まとめ RATSの短期成績,長期成績をまとめた報告は限られている。特に長期成績の報告は少ないが,VATS,開胸手術と比較しRATSの手術成績は■色がないとの報告が多い。今後のRATSの課題としてsolo surgeonの傾向が強くなるという若手医師への教育的視点からの課題,導入コストの課題などがあげられる。しかし,今後機器の進歩,新機種の投入により状況は変化していくと考えられる。さらなる安全性と低侵襲性を兼ね備えた手術アプローチが今後期待される。 本抄録/会議録に関連し,開示すべき利益相反関係にある企業などはありません。日気食会報,73(2),2022J. Jpn. Bronchoesophagol. Soc.Vol. 73 No. 2, 2022シンポジウム4本稿は第72回日本気管食道科学会の抄録/会議録である。1.はじめに 2018年にロボット支援下手術が呼吸器外科領域でも保険収載され肺悪性腫瘍および縦隔腫瘍に対するRobotic-assisted thoracic surgery(RATS)の症例数は急速に増加している。また,近年の医療機器の技術革新に伴いVideo-assisted thoracic surgery(VATS)だけでなく単孔式VATSを導入する施設も増加しており,これまでと比較し多様な手術アプローチの選択が可能な状況となっている。当院ではこれまでに4台の手術支援ロボット(Da Vinci S, X, Xi, Hinotori)が運用されており,当科では2018年6月より3台(Da Vinci S, X, Xi)を使用しRATSを行ってきた。2.手術適応および手術手技 手術適応についてはVATSと同様にしている。非適応項目は①気管支形成,血管形成が必要な症例,②7 cm以上の巨大腫瘍,③隣接臓器合併切除が必要な症例としている。また,開胸コンバージョンは①出血量500 ml以上もしくは②盲目的な手技が不可避な状況としている。Xiでは第8肋間に4つのポートを配置しているが,左上葉のみ第7肋間に配置している。助手用ポートは上葉切除では第4肋間,下葉切除では第5肋間に配置し助手からのデバイス操作も可能にしている。3.RATS症例および手術成績 2018年6月より2021年6月までに当院で肺悪性腫瘍および縦隔腫瘍199症例に対しRATS(葉切除177例,区域切除13例,縦隔腫瘍切除9例)を行った。使用機種はS:48例,X:3例,Xi:148例,肺葉切除の平均手術時間は187分,平均コンソール時間101分,平均出血量は26 mlであった。開胸コンバージョンはなかったが,創縁からの持続する微小出血に対する止血に難渋しVATSへのコンバー当院でのRATS手術について低侵襲時代の新技術眞庭謙昌1),田中雄悟1),土井健史1),法華大助1)1)神戸大学大学院医学研究科外科学講座 呼吸器外科学分野

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