日本気管食道科学会会報 第73巻2号
72/167

 第72回日本気管食道科学会総会が,大分大学医学部呼吸器・乳腺外科学講座 教授の杉尾賢二会長主宰のもと開催された。杉尾会長はテーマを「新たな時代の気管食道科学」と掲げられ,画像診断技術が進歩する昨今,シンポジウム「画像新時代と手術」をご企画された。大分大学医学部消化器・小児外科 教授 猪股雅史先生の基調講演を賜り,4名の演者の先生方から画像の進歩と手術への応用について発表していただいた。1.【基調講演】「画像新時代における手術の進歩」  大分大学 消化器・小児外科 教授 猪股雅史先生 猪股教授には内視鏡外科のエキスパートの視点から,術前の画像診断から術中画像の進歩まで幅広くご講演をいただいた。正確な術前診断により,治療方針や術式を適切に決定することができ,さらに高精度な術野画像,ならびに蛍光ナビゲーション,AIナビゲーションを駆使することで手術の安全性,根治性が格段と向上することが示された。2.「胸腔鏡下食道切除術における内視鏡システムの変遷と今後の8K3D内視鏡システムへの課題と期待」  慶應義塾大学 一般消化器外科 川久保博文先生 食道癌手術の最も重要な両側反回神経周囲リンパ節の郭清手技において,反回神経麻痺を回避するには緻密で愛護的な手術操作が求められる。慶應大学では,いち早く2K3D内視鏡システム,最近では8K2Dシステムを導入され,その使用経験を発表いただいた。微細な血管構造や膜構造が視認できるようになり,安全性,根治性を含めた手術の精度がさらに向上することが期待される内容であった。3.「呼吸器外科の画像支援:現状とこれから」  名古屋大学 呼吸器外科 芳川豊史先生 呼吸器外科領域でも胸腔鏡手術が普及し,術前の3次元CT再構成による術前シミュレーションは有用である。医工連携により術中の肺の脱気状態や動108的変形にも対応可能な3次元CT再構成プログラムを開発された。さまざまな工夫により,よりバーチャルな手術前シミュレーション,術中ナビゲーションを実現され,本領域の発展には不可欠な医工連携の重要性も再認識する発表であった。4.「人工知能による食道癌診断の有用性」  がん研究会有明病院 消化管内科 由雄敏之先生 近年,NBIなどにより食道癌の内視鏡診断の精度は飛躍的に向上したものの,その精度は内視鏡医の経験に依存する。内視鏡静止画を用いたAIによる精度の高い食道癌深達度診断が報告され,また内視鏡動画においても食道癌の拾い上げが可能であった。AIによる拾い上げ,深達度診断,リスク層別化など診断補助ツールとして実臨床への応用へ大きな期待ができる発表であった。5.「頭頸部外科領域 副甲状腺同定における蛍光観察システム」  京都大学 耳鼻咽喉科・頭頸部外科 河合良隆先生 頭頸部外科領域でも術中の蛍光観察システムが開発され,実臨床でもさまざまな場面で応用されている。本発表では術中の副甲状腺同定に際し,蛍光情報を術野にプロジェクションマッピングするシステムの有用性が発表された。術者が術野から目を離すことなく,蛍光部位を視認可能であり,リアルタイムで手術を施行することが可能である。他領域の手術へも応用することが期待できる発展的な発表であった。 本企画は気管食道疾患における画像診断技術,術前・術中シミュレーション技術について,内科,外科,耳鼻咽喉科のエキスパート5名の演者からの発表であった。本セッションでは,臓器別の縦割りではなく関連各科を通じた横断的な最先端の知識を得ることができた。最後に本セッション司会の機会を与えていただいた杉尾会長に感謝申し上げます。 本抄録/会議録に関連し,開示すべき利益相反関係にある企業などはありません。日気食会報,73(2),2022pp.108─116J. Jpn. Bronchoesophagol. Soc.Vol. 73 No. 2, 2022シンポジウム5本稿は第72回日本気管食道科学会の抄録/会議録である。画像新時代と手術シンポジウム5「画像新時代と手術」司会者のまとめ馬場秀夫 熊本大学大学院 消化器外科学大森孝一 京都大学 耳鼻咽喉科・頭頸部外科

元のページ  ../index.html#72

このブックを見る