内視鏡手術における術野画像の高精度化は手術の精度向上に大きく貢献している。近年はさらに解像度が向上し,近い将来8K3D画像による外科手術も実用化される可能性がある。食道癌手術は,大動脈や心臓などの大血管や気管,気管支に囲まれている食道を摘出するというダイナミックな視野展開と操作が必要である。一方で,最も重要なリンパ節郭清対象が両側反回神経周囲リンパ節であり,容易に麻痺を起こしやすい反回神経周囲を精密で愛護的な操作をし,機能を温存することが求められる。教室では胸腔鏡下食道切除を導入後はオリンパス社製2D内視鏡システムを使用していたが,2013年7月よりオリンパス社製ハイビジョン2K3D内視鏡システムを使用している。3Dシステムを使用した手術は2Dシステムを使用した手術と比較し,手術時間が短く,縦隔リンパ節郭清個数が多い傾向にあった。2018年に導入したダビンチXiシステムでは2K3Dシステムが採用されており,より広い視野で奥行き1)慶應義塾大学医学部 一般消化器外科111を実感できるようになった。2019年以降に8K2D内視鏡システムを用いた手術を6例経験した。8K胸腔鏡画像においては,血管や神経組織を栄養する微小血管のレベルまで視認可能であり,2Kレベルでは認識し得なかった何重もの膜構造が認識可能であった。一方で,現状では硬性鏡のため水平視しかできないこと,内視鏡が重く,オートフォーカスができずスコピストに必要とされる技量と負担が大きいこと,70型モニタは見やすいものの大きいため手術室の機材の配置や移動に苦慮すること,固定された画面での繊細な操作には強いものの,ダイナミックな視野展開の変化への対応が困難なことなどの多くの課題も残している。今後それらの課題を克服し,8K3D画像に立脚した外科解剖学的知見が集積することにより,より詳細な膜構造認識による根治的かつ愛護的なリンパ節郭清手術を確立することが期待される。日気食会報,73(2),2022J. Jpn. Bronchoesophagol. Soc.Vol. 73 No. 2, 2022シンポジウム5第72回日本気管食道科学会総会ならびに学術講演会予稿集より再録川久保博文1),松田 諭1),北川雄光1)胸腔鏡下食道切除術における内視鏡システムの変遷と 今後の8K3D内視鏡システムへの課題と期待画像新時代と手術
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