1)名古屋大学大学院医学系研究科 呼吸器外科112日気食会報,73(2),2022J. Jpn. Bronchoesophagol. Soc.Vol. 73 No. 2, 2022シンポジウム5本稿は第72回日本気管食道科学会の抄録/会議録である。1.はじめに 現在,日本人の死因の27%を占める悪性新生物は,2位の心疾患(15%)を大きく引き離し死因の1位である。その中でも,肺癌による死亡が最も多く,これは世界的にも同じであり,肺癌は,人類が克服すべき最大の悪性疾患といえる。また,本邦における呼吸器外科の手術数は,年々増加しているが,これも原発性肺癌に対する手術の増加によるところが大きい。近年,画像技術の進歩と普及により,CT検査などで,小さな肺癌が検出される頻度が増加している。このような小さな肺癌に対しては,低侵襲に手術を行うことが多く,胸腔鏡手術(VATS:video-assisted thoracic surgery)の症例数が増加することとなった。外科領域における手術の低侵襲化の流れもあり,呼吸器外科領域では,VATSが手術アプローチの7割程度を占めるようになった1, 2)。 VATSでは,視野や触覚に制限があるため,術前の3次元CT再構成画像による検討は有用である。しかし,既存のシステムでは血管・気管支などの描出は,「含気状態」の肺の「静的」な描出に留まる。実際の手術では,「脱気状態」で「手術操作で柔らかい肺が動く」など,術前の想定と異なる。そこで,われわれは,医工連携にて,手術中の脱気状態や,動的な変形に対応可能な次世代3次元CT再構成プログラムを開発し,臨床応用を目指してきた。2.目的 われわれが開発した呼吸器外科手術における脱気変形と可変形3次元バーチャル画像の開発の現状について概説し,成果物の可能性と将来展望につき検討する。呼吸器外科の画像支援:現状とこれから芳川豊史1)画像新時代と手術3.方法 京都大学情報学研究科(中尾恵准教授)と医工連携で共同開発した,肺におけるRPM(Resection Process Map)というシミュレーションソフトウエアを用いて,可変形3次元バーチャル画像を作成し,本研究を遂行した。4.結果 まず,可変形3次元バーチャル画像の作成方法の概略を述べる。患者個人個人において,術前に撮像された造影CTを用いる。SYNAPSE VINCENT(富士フィルムメディカル)にCTデータを取り込み,肺切除解析モードにて従来通りに半自動で画像処理を行う。処理された画像のサーフェスデータをSTLフォーマットで出力した後に,RPMアルゴリズムを用いて,可変形3次元バーチャル画像を半自動で得ることができた(図1)。 さらに,術前CTでの含気状態の肺から,手術中の脱気状態の肺の状態を,半自動的にシミュレーションすることにも成功した(図2)。5.考察 RPMは,本来,肝臓の切除シミュレーション用に考案・作成されたものであったが,今回,肺切除への利用を着想し,成功した3, 4)。開発後の臨床応用において,将来的なナビゲーションを目指すのであれば,術中の肺の虚脱への対応が必須であることに気づき,脱気変形アルゴリズムの開発を行った5, 6)。 今後,本新規技術を用いて,より現実に近い術前の手術シミュレーションや術中の手術ガイドを目指す。また,本技術の創成により,肺野の微小結節の位置同定をマーカーレスで行うことが理論上可能となったため,現在,術前画像のみを用いた肺野の微小結節の位置同定の開発について,さらなる精度の上昇を目指している7)。
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