日本気管食道科学会会報 第73巻2号
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 食道癌は進行癌で診断されると予後不良であり,早期発見は重要である。しかし食道表在癌は凹凸が少ない病変,背景粘膜との色調差が乏しい病変が多く,その診断はしばしば困難である。ヨード染色は食道癌リスクの高い患者において有用であるが,検査時間の延長,不快感の原因になるためスクリーニングの内視鏡で広く使用されてはいない。狭帯域光観察(NBI:Narrow band imaging)は,癌の視認性を改善する画期的な技術であるが,経験の浅い内視鏡医においては診断感度が十分でないと報告されている。近年Deep learningを用いた人工知能(AI)の画像認識能力は大きく進歩し人間と同等以上の成績も報告されており,医療の現場でも次々に画像診断における有用性が報告される。われわれは世界に先駆けてAIを用いた診断補助システムが内視鏡静止画において食道癌を高率に非常に速く検出すると報告した。食道癌の深達度診断能も良好で,AIは1)がん研有明病院 上部消化管内科,2)ただともひろ胃腸科肛門科,3)AIメディカルサービス114高い正診率でEP-SM1とSM2以深を鑑別した。また内視鏡動画中でもAIは食道癌を高率に拾い上げることが可能で,内視鏡医が癌に気づかずに通り過ぎたことを想定した速い動画でも内視鏡専門医よりも高率に食道癌を診断した。それだけでなくAI診断システムの補助を用いると内視鏡動画中から有意に高率に食道癌を拾い上げることができた。またAIに食道背景粘膜を教育することにより,AIはヨード染色を行わない背景食道粘膜から食道癌の高リスク群であるヨード多発不染を高率に予測することができて,AIが高リスク群と判定した症例からはより多くの食道癌が発生した。これはAIが食道粘膜を判定して癌のリスクの層別化をしたと言える。AIは内視鏡における癌の拾い上げ診断,深達度診断,リスク層別化で有用であった。更なる精度向上が必要とは考えられるが,近い将来に実臨床においてAIによる診断補助が実現すると考えられる。日気食会報,73(2),2022J. Jpn. Bronchoesophagol. Soc.Vol. 73 No. 2, 2022シンポジウム5第72回日本気管食道科学会総会ならびに学術講演会予稿集より再録由雄敏之1),多田智裕2),3),藤崎順子1)人工知能による食道癌診断の有用性画像新時代と手術

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