日本気管食道科学会会報 第73巻2号
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 副甲状腺腺腫や過形成といった副甲状腺手術,あるいは甲状腺摘出術中の正常副甲状腺温存といった状況において,副甲状腺の術中同定は時に困難である。原因として副甲状腺下腺に部位バリエーションが多いことや,正常に近いサイズの病変であった場合に術前画像検査で事前に同定できないまま手術に臨まねばならないことが考えられる。手術中の確認方法として広く行われている手技は摘出組織の迅速病理診断であるが,そのほか術中iPTH測定,float or sink test(脂肪組織は生理食塩水に浮遊するが副甲状腺は沈殿する)などの方法があるものの,いずれの手技も病変の部位がわかるものではない。 副甲状腺の部位を術中に同定する方法として,過去にはメチレンブルー静注や5-ALA静注による観察が報告されてきたが,前者は薬剤の持つ神経毒性が,後者は低い病変検出感度に加え薬剤投与後48時間の日光遮光が必要などの患者負担があり普及するに至っていない。そのような中,副甲状腺はICG蛍光観察時に使用する近赤外光とほぼ同じ波長での励起光照射により,ICGと似た波長での自家蛍光が観察できるという報告を2011年にParasがして以降,自家蛍光による同定法が本邦でも普及しつつある。しかし自家蛍光はICGによる蛍光と比較すれば弱いものであるため高感度の検出器が観察に必要となる。その結果,ICG観察用に設計された赤外線観察機器すべてで自家蛍光の観察が可能なわけではないという事態が生じる。 一方でICGを用いた蛍光観察も正常副甲状腺や副甲状腺病変の同定において有用であるとする報告が2015年頃より示されている。ICG蛍光観察はセンチネルリンパ節,すなわち腫瘍から直接リンパ流を受けるリンパ節を同定する目的で乳腺外科(乳1)京都大学医学部附属病院 耳鼻咽喉科・頭頸部外科115癌)や皮膚科(悪性黒色腫)などで発達した他,肝機能検査や循環機能検査で使用されていた。脳血管外科領域で1996年に脳腫瘍での脳血管病変の循環動態を術中観察する有効性が発表されて以降さらに広く使用されるようになり,2018年に「血管及び組織の血流評価」まで保険適用が拡大した。副甲状腺の同定において,自家蛍光観察と比較しICGを併用することで検出力がさらに向上したという報告はないものの,正常副甲状腺を温存したい時に術後副甲状腺機能を推測できるという報告がある。その他,ICGの発する蛍光は強力なため使用する赤外線観察機器を選ばないなどの利点があげられる。 近赤外光を観察する機器については近年さまざまなインターフェースのものが認可されており(表1),従来から広く使用されているPDE-Neo II(浜松ホトニクス)のような懐中電灯型のハンドピースを用いるカメラシステムだけでなく,内視鏡手術用に開発されたVisera Elite II(OLYMPUS),外視鏡であるVITOM 3D(KARL STORZ)などでも近赤外線波長の観察が可能である。 著者の所属する施設ではICG蛍光観察装置(Medical Imaging Projection System-MIPS:三鷹光器)を採用している(図1)。同システムは国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)のプロジェクトである医療分野研究成果展開事業産学連携医療イノベーション創出プログラム(ACT-M)により開発された機器であり,2019年にクラスII医療機器として製造販売承認されている。その最大の特徴は近赤外線波長での観察映像をモニターに映すだけではなく,プロジェクションマッピングの技術を用いて直接術野に蛍光情報をプロジェクタで投影することにある。投影映像のズレは±2 mm以下にとどまり,臓器の移動や体組織の変形にリアルタイム(0.2秒以内)に追従することが可能である。日気食会報,73(2),2022J. Jpn. Bronchoesophagol. Soc.Vol. 73 No. 2, 2022シンポジウム5本稿は第72回日本気管食道科学会の抄録/会議録である。頭頸部外科領域 副甲状腺同定における蛍光観察システム河合良隆1)画像新時代と手術

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