J. Jpn. Bronchoesophagol. Soc.Vol. 73 No. 2, 2022パネルディスカッション1反回神経麻痺の予防と治療本稿は第72回日本気管食道科学会の抄録/会議録である。1)大分大学 消化器・小児外科,2)大分中村病院 外科,3)大分大学 総合外科・地域連携学121た。評価項目は,年齢,性別,腫瘍因子,既往症などの患者背景,手術時間,出血量,術中偶発症,郭清リンパ節個数などの手術所見,術後合併症,術後在院日数の術後短期成績とした。4.結果 年齢,性別は,導入初期群で67歳,男性10例,女性2例であり,CIONM群で69歳,男性19例,女性3例であった。治療前進行度は,導入初期群はすべてStage Iであり,CIONM群はStage I/II/IIIがそれぞれ6例,10例,6例であった。病理学的進行度は,導入初期群でStage 0/I/IIがそれぞれ4例,4例,4例であり,CIONM群はStage 0/I/II/III/IVがそれぞれ5例,4例,10例,2例,1例であった。CIONM群に術前化学療法(NAC)症例を16例(73%)認めた。3領域リンパ節郭清を導入初期群1例(8%),CIONM群9例(41%)に施行した(p<0.05)。手術時間はCIONM群が有意に短かった(540 vs 456 min;p<0.05)。出血量や郭清リンパ節個数は両群間で差はなかった。吻合部狭窄はCIONM群で少なく(8例(67%)vs 4例(18%);p>0.05),縫合不全(4例(33%)vs 3例(13%);p=0.32),反回神経麻痺(4例(33%)vs 6例(27%);p=0.71),術後呼吸器合併症(3例(25%)vs 5例(23%);p=0.88)については両群間で有意差はなかった。5.考察 従来の開胸手術と比較した縦隔鏡下食道切除術の利点は,呼吸機能合併症が少なく,安全に上縦隔の郭清が行えることがあげられる。一方,術後合併症や術後在院日数は同程度であり,郭清リンパ節個数日気食会報,73(2),20221.はじめに 食道癌に対する縦隔鏡下食道切除術は開胸を必要とせず,低呼吸機能症例など,リスクの高い症例において有用な術式であると期待されている。一方,本術式の安全性は完全には明らかにされていない。われわれは2017年にcStage Iの食道癌に対し本術式を導入し,12症例に対し安全に施行した。一方,反回神経麻痺を4例(33%)に認めたため,本術式の適応を拡大するためには反回神経損傷の回避策が不可欠と判断した。 神経刺激装置を使用した術中持続神経モニタリングシステム(Continuous intraoperative nerve monitoring:CIONM)は神経の同定,術中神経損傷の予防,麻痺の予後予測に有用であることが示され1),2020年4月より食道悪性腫瘍手術におけるCIONMの使用が保険適用された。 われわれはCIONMを導入し反回神経損傷の回避策を行った上で,縦隔鏡下食道切除術の適応を,T4やBulky LNを除く,NAC奏効例に拡大した。2.目的 当科での縦隔鏡下食道切除術におけるCIONMの有用性について検証する。3.方法 2017年2月から2021年1月までに当科で胸部食道癌に対して縦隔鏡下食道切除術を施行した34例を対象とした。cStage Iを対象とした導入初期群12例と,CIONMを導入し,NAC奏効例も適応に含めた22例につき,短期治療成績を比較検討し鈴木浩輔1),柴田智隆1),錦 耕平2),麓 祥一2),河野洋平1),赤木智徳1),二宮繁生1),上田貴威3),當寺ヶ盛学1),白下英史1),衛藤 剛1),白石憲男3),猪股雅史1)縦隔鏡下食道切除術における術中持続神経モニタリングの 有用性の検討
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