日本気管食道科学会会報 第73巻2号
87/167

J. Jpn. Bronchoesophagol. Soc.Vol. 73 No. 2, 2022パネルディスカッション1反回神経麻痺の予防と治療本稿は第72回日本気管食道科学会の抄録/会議録である。 甲状腺手術において,反回神経の同定と温存は普遍的な課題である。反回神経が温存されていても約1%に永続性の麻痺が生じるとされ,目に見えない神経損傷を回避するための,愛護的な手術操作は重要である。反回神経麻痺を生じさせないための工夫として,術中神経モニタリングが一般化されている。当初,偽陽性率の高さが問題とされたが,ガイドラインの確立,手技の標準化が進むにつれ大幅に信頼性は向上している。2016年には迷走神経の持続刺激による術中持続神経モニタリング(図1)が可能となり,反回神経の探索のみならず,術後麻痺発生率の低下に寄与している(図2)。麻痺の予防に努めても,腫瘍浸潤により反回神経の切除を余儀なくされる場合もあり,その際は即時再建を行うこ1)札幌医科大学 耳鼻咽喉科・頭頸部外科図1 持続的術中神経モニタリングCIONM123とが望ましい。神経(直接)吻合,自家神経移植,神経移行(頸神経ワナへの吻合)などが選択肢となるが,グラフトが存在しない場合など,困難なこともある。欧米では人工神経(神経再生誘導チューブ)による末梢神経再建が一般的に施行されて久しい(図3)。本邦においては,2013年に人工神経の使用が可能となり,末梢神経再建を行う際の治療選択肢が増えた。整形外科,形成外科領域で主に使用され,感覚神経のみならず運動神経の一部でも比較的良好な成績が報告されており,short gapに対するconnectorや吻合部の保護を目的としたwrap-pingなど既存の治療方法へ追加することによる上乗せ効果も期待されている(図4)。反回神経への使用に関しては報告が少なく不明な点が多いもの日気食会報,73(2),2022黒瀬 誠1),近藤 敦1),大國 毅1),高野賢一1)反回神経麻痺の予防と治療 甲状腺手術を念頭に

元のページ  ../index.html#87

このブックを見る