日本気管食道科学会会報 第73巻2号
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J. Jpn. Bronchoesophagol. Soc.Vol. 73 No. 2, 2022パネルディスカッション1反回神経麻痺の予防と治療第72回日本気管食道科学会総会ならびに学術講演会予稿集より再録 反回神経は迷走神経の分枝の一つで,声門の感覚と運動を司る。この神経の麻痺は,嚥下障害や発声障害,さらに気道狭窄による呼吸障害を引き起こすこともある。そのため,反回神経麻痺は,耳鼻咽喉科医師とりわけ喉頭を専門領域とする医師にとって関心が集まりやすい。診断は,喉頭ファイバースコープを用いて,随意的な発声や反射を誘発させるなどを通じて,声門運動を観察すれば比較的容易と考える。反回神経麻痺の診療は,さらに原因を特定していくことが重要となる。原因別にみると,以前より気管挿管によるものも含めて,反回神経走行路に手術操作が及んだ術後性麻痺が多いことが報告されている。他にも脳幹■塞などの脳血管疾患,心血管疾患の存在など,他の疾患に続発するものとして認められることも稀ではない。そのため,喉頭ファイ1)日本大学医学部 耳鼻咽喉・頭頸部外科125バースコープで反回神経麻痺の存在を確認すれば,反回神経の走行路の全体を評価するため,頭部から縦隔までのCTやMRIを用いた画像検査は必須になる。実際には,これらの画像検査を用いても,麻痺の原因が特定できない特発性反回神経麻痺例も多く経験する。治療は,片側性麻痺と両側性麻痺とで異なる。片側性麻痺の場合は,声門閉鎖不全による発声障害や誤嚥リスクの対応が主目的になる。発声時の声門間■の大きさによって,保存的治療,声帯注入術,喉頭枠組み手術の適応を決定する。さらに,両側性麻痺の場合は,声門狭窄による呼吸障害の対応も加わる。この場合は,各種声門開大手術が行われる。本講演では,過去5年間の当科での反回神経麻痺患者のデータを用いて,反回神経麻痺の耳鼻咽喉科診療の総論と実態を示す。日気食会報,73(2),2022反回神経麻痺の総論 耳鼻咽喉科医の立場から松崎洋海1)

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